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菫桜色

観た映画、読んだ小説、プレイしたゲーム、良いこともそうじゃないこともいろいろ

小説『ダリの繭』 感想

 

ダリの繭 (角川文庫―角川ミステリーコンペティション)

ダリの繭 (角川文庫―角川ミステリーコンペティション)

 

 

読みながらずっと、「気持ち悪い」「気色悪い」などなどを連発しておりました。
何に対してって、……火村に。
火村編第二弾ということか火村たちはあっさり警察の仲間に入れてもらえたりとかしてます。
今回も前回以上につっこみどころ満載でしたがなんせ読み始めてから読み終えるまでに異様な時間がかかった上、間空白まで存在してしまったわけであんまり覚えてない点も……。
けれどはっきり言えるのは、今回の火村はとってもオヤジくさい。ということ。
そしてまたもや時系列的には合ってるんですが、46では付き合い始めみたくべったり、国名シリーズでは物理的な距離があっても平気そうな長年連れ添った夫婦みたい、とかふざけた例えをしてみたけれど、その中間の今回、このふたりは新婚夫婦です。文字通り。
「締切りが迫ってる短編があるんで、京都まで行くのはちょっと・・・・・・」
「よし、じゃあ、俺がそっちのマンションに行こう。お前の仕事が終わるまで横でおとなしく待ってる。読み残しの『ゴルゴ13』でも読みながら」
「残酷な仕打ちはやめてくれ。――とにかく、きてくれるんやな?」
「これからもうひとコマ講義があるから、そっちに行くのは八時ぐらいになるかもしれない。それまで待っててくれるんなら、一緒に晩飯を食いに行こう。――いいか?」
とかいう仲の良いところから始まります。
きて“くれる”って・・・何やねんアリス。
いや、ほんとの始まりはふたりで一緒におフランスですがね。
『体を斜めにして座っていた火村は、椅子の背に片足を掛けてさらにだらしない恰好になった。』
『椅子の背に掛けた右足をぶらぶらさせながら、火村は頷いた。』
って、一体どんな姿勢?誰かやって見せてほしいんだけど。
『翌朝、八時過ぎに火村に起こされた。瞼をこすりながらダイニングに出てみると、何と、トーストとスクランブル・エッグの朝食の支度ができており、コーヒーの香りが漂っている。それを見て、瞬時に目が覚めた。
「ああ、眠気がふっ飛んだ。まるで新婚家庭の朝の食卓やな」
「俺もそう思う。テーブルに皿を並べながら新妻になったような気がした」
火村はまだ剃っていない髭をぼりぼり掻きながら言った。』
何言ってんの?って、ちょっと読み返しましたけども。
親父くさいよ火村。親父くさい新妻とかものすごい嫌だ。笑
でもアリスに対する気遣いはちゃんとしてて良いですね。
そしてそれからアリスの青い鳥を運転する火村の横顔を見つめるアリス。
『「俺の顔に何かついてるか?」
前を向いたまま彼に言われ、私は「いいや」と答えて前方を向き直る。
「あんまり見つめるなよ。新婚ごっこはもう終わりだぜ」
私は溜め息をついて、心をこめてひと言ぶつけた。
「アホ!」』
ってだからあんたたち新婚ごっこはよせよ。


『火村は女性に対して垣根を張り巡らせている節がある。講義を終えた後、教壇に向かってファンの女学生が飛ばす「先生、さようならー」という声には手を振るくせに――それはサービスなのだそうだ――、コンパで酔ってもたれかかってきた女の子は邪険に押し返すらしい。そもそも、日常の生活で、彼から女性に話しかけるということすら稀だった。』
出た出た火村の女嫌い。というか私も手振ってほしいよ。


『私から提案した。欠伸をしながらも火村が同意したので、・・・(略)』
なんか・・・今回の火村ほんとになんかだらしない。
「ナルシストのおにいちゃん、おねえちゃんがいっぱいだ」
これ火村の台詞ですか?
しかし直後。
『火村はオーケーと言うように片手を上げた。
「では、淀屋橋まで行きましょう。もちろん、あなたがグラスを空けてから」』
あれ、すごく気障・・・すごくかっこよく戻ってる・・・。
今更気付いたけど、火村がだらしなくなるのはアリスとふたりのときだけなんですね。ふたりっきりっていうわけじゃないけど、周りに、じゃなくて間に誰もいない状態になると途端に親父になる気がする。
いやいつでもどこでもだらしなかったらすごく嫌だしそもそも既にそれは火村じゃあない。


「いい子だ、自分で気がついて」
い い 子 だ ・・・ 。
どんな扱いだアリス。君はそれでいいのか。
『明け方。
「あの髭が、判んねぇよな」
そんな火村の寝言を聞いた。』
寝言・・・臨床犯罪学者が変な寝言言ってます・・・アリスにしっかり聞かれてます・・・。
『「もう君の出番はなくなったのか?」
店先で意地悪く尋ねると、彼は「はっ!」と笑った。』
怖いわ。
『「へへ、こりゃ妖しいな」
火村はにやにや笑いながらノックした。』
アヤしいのはお前だ火村。
ラピス・ラズリ・ノワールの台詞。
「半信半疑でいらしたか。何にしろ、男二人が肩を寄せ合ってここにいるということは、
外の世界の懊悩を抱え込んでのことだろう。さぁ、何なりと尋ねて私を試すがいい」
ホモだと思われてるよおふたりさん。違うなら違うって否定しようぜ。

『「俺はこのフィールドワークを始める前、徹夜に近いことして論文を書いたんだって言ってるだろ。有栖川先生みたいに譫言をワープロで打ちゃあいいって仕事じゃないんだから」
「人の作品に向かって譫言とは何や」と言うと、彼はあっさり「すまん、悪かった」と託びた。
「おい、マジで謝るなよ。冗談やっていうぐらい判ってる」
「いや、本気で言ったから謝ったんだ」
私はわざわざ腰を浮かして尻の下のクッションを取り、彼にぶつけた。ぶつけてから、新婚ごっこもどきをしてる場合ではない、とわれに返る。』
まだ続いてたよ新婚ごっこ・・・。いつまでやってんの?ずっとやってんの?もう結婚しちゃえば。


『私たちは理解理解と繰り返した。彼と私は時々このように、口に出して『自分が他者を理解している』を確認し合う。とても共感などできない主義、思想、趣味でも、理解は可能でありたい、という共通の認識からくる二人ひと組の口癖だ。』
理解って、いいですよね。
同意するとか、反対するとか、そんなのは差し置いて、ただとりあえずそういうのもひとつの意見だと、その存在を認めることが理解なんですね。
そんな広いキャパを持てる人間になりたいものです。
「罪も罰も文化という馬に乗ってどこへでも走る。ヘイホー。北でも南でも。西でも東でも。ただな、自分が乗っている馬が暴走しだしたと判ったら、俺は乗って走りながらその馬を蹴り殺してやりたい、とも思ってるんだぜ」
ヘイホー。
何が!?


そしてそして『スイス時計の謎』でも触れていた、アリスの過去。
とてもとても切ない、でもそれがなかったら今のアリスはなかったに違いないアリスの過去。
しかし恋心が本格推理小説に化けるとは・・・なあ。すごいなあ。
そしてとりあえず火村先生はハムサンドが好き、と・・・。

 

『火村は京都に帰っていき、私は夕陽丘の自宅に戻ってきた。
五日ぶりに一人の夜になった。』
ああ、ふたりってそんなにずっと一緒にいたわけか。
やっばいなまた本質には触れないで重箱の隅突っつくようなマネしかしてねえな。
しかも途中からすごいすっ飛ばしよう。どうなんだ。
しかし今回も面白かったですよ有栖川先生、と。それだけは言える。