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菫桜色

観た映画、読んだ小説、プレイしたゲーム、良いこともそうじゃないこともいろいろ

小説『乱鴉の島』 感想

 

乱鴉の島

乱鴉の島

 

 

4年ぶりの火村シリーズだそうですね。前から持ってはいたんですが、ハードカバー読むの苦手なので放置でした。いつもいつももったいないなあ…。
で、アマゾン見たらすごいこと書いてあるんですよ。
『精緻なロジックの導き出す、エレガントかつアクロバティックな結末。』
なんだエレガントかつアクロバティックな、って。そんなんじゃなかったぞ。
ま、順に感想いきましょか。


子供アリスがT字路で迷う話、行きは突き当りだけど帰りはそうじゃなくて道に迷うって、当たり前といえば当たり前なんですけど、改めて言われるとはっとしますね。狐に化かされたみたいな気にはなるし、現に子供の頃はそうやって道を間違えたことがあった気がします。


第一章、いきなり助教授登場です。なかなか登場しないことも多いのに。でももう準教授なんだよね。なんかきもちわるい。火村先生には一生助教授でいてもらいたいです。響き的に。どうせ講義休んで警察とつるんでばっかいるんだから、教授になんかなれないわけだし。笑
で、かなりお疲れな火村先生が、下宿のばあちゃんのすすめで知り合いの民宿に行くことにします。
しかし何をするのも億劫そうで、物憂げでアンニュイな先生、私なら一生眺めていたいけどなあ。猫にでもなって。
なんかちょっと嫌がるんだけど、ばあちゃんが「独りではつまらんかったら、有栖川さんでも誘うて」とか言った後は打って変わって不思議と行く気になってます。やっぱりウリになりたい。


そうしてアリスと島に着いてみたものの、なんか無人島みたいに変な場所です。
なのに。
「みんな村祭で出払っているのかな」
「島の反対側で、秘密の儀式の最中なのかもな」
やっぱりこいつら、妙なこと言い合ってます。そういうとこが好きすぎるんだ。
それから島のひとたちに出会い…
「訪ねる家を間違える人はいるけれど、島を間違えるというのは豪快すぎる。――――本当ですか?」
そう、どうやら島が間違っていたらしい。そして、財津さんにこんなこと言われてしまいました。そりゃあ、豪快すぎるよ。
そして、そこの家の人に電話を借りてかけたときの火村。この男の慇懃無礼は何か企んでそうな雰囲気ありますよね。別にそういう裏読みをいちいちしてるんじゃないけど、そういう雰囲気がある。っていうだけ。というか、なんか冷たそうな印象になるんだよね。なんかもうとにかくアリスとしゃべってるとき以外。
それで、電話を借りたとき。
「とりあえず黒根島まで迎えの船を回してくれるよう頼んだら、『やってみます』だ。『やってみます』」
ミ○リ電化ですかね。
ちょっと怒ってますかね、火村先生。
アリス相手だから感情が顕わになるのかなあなんて勝手な想像。
『「これは傑作だな」火村が失笑する。「お前、児童向けの本を出していながら、小学生から『この人、知ってる』と言われて狼狽するなよ。これだからマイナー作家は困る」』
火村先生すぐアリスの『小説家』『推理小説家』な部分をばかにするよね。


物語がもう少しだけ進んだところで、この屋敷にいる人間をアリスが頭の中でカウントします。おお、そろそろ何か起こる合図だな、と孤島ものの定石的に考えてみたら、まだ人数増えた。
推理小説ってある意味下地がしっかりしてないと面白くないのに、ここじゃ序盤すぎてまだ起こりませんよって考えたらわかりますよね。ちょっと先走りすぎました。


「おじさんも何か小説を書いているんですか?」
拓海にそう言われた火村。おじさん…。うん、いいと思う。
でも先生の対応は丁寧ですよ。いい大人。
しかも、
「おじさんは大学の先生なんだ」
と、ふつうにおじさんって言った!


そして結局島で唯一人が住んでいる家の屋根裏に泊めてもらうことになるんですね。でも六畳ですよ!しかも隅にダンボール箱がいくつか積んであるとか。
30越えた男がふたりで泊まるのにそれはせますぎないか!せますぎるよ!!

『「火村先生は、やらないですか?」
誘われてやがる。』
なんだやがるって。かわいいな。
『「お連れの方もミステリをお書きで?」
「いいえ。私は畑違いです」
火村は、そっけなく言った。それを訊いた初芝は、下唇を人差し指で弾く。
「いいなぁ。渋くて味のあるバリトンだ。声優、やれますよ。そういう声の人、なかなかいないんだ」』
ヘリで降り立ち、いきなり親しげに近寄ってきた初芝を、アリスは結構親しげに受け入れるけど、火村はそっけないです。そういえば火村って友達少ない設定だったもんな。無闇に愛想振りまいたりはしませんて感じかな。
しかし火村先生が声優している様は想像するだにシュールだな…。
「(略)いつでもウェルカムですから、遊びにいらしてください。テレビもなくて、夜が長いですからね。――――有栖川さん、よろしく」
いくら仲良くなれなそうでも、火村だって社交辞令で誘ってやれよと思わないでもないけど、火村にとっても初芝にとってもそれでよさそうだしちょうどいいのかな。
しかし初芝にもモテて、子供たちにもモテるアリス。
「犯罪学者の先生は、さすがに僕のビジネスと結びつかないな。パートナーになれそうなのは、有栖川さんだ」
だとさ。本心かな。初芝ってよくわからないんだよな。
初芝は左手をゆっくりと上げ、私の肩に置いた。触れられたところが、ぽっと熱くなる』
アリス??????
ま、ま、まあちょっと落ち着こうかと思っているとこへクローンて言葉が出てきます。SFか??って思っちゃいますけど。
いちおクローンについては、私の専門分野でもあったのでストーリーに関係なさそうな部分までちゃんと知ってるんだけど、知ってるからこそSFかよって思うし非現実的だなあって思います。
技術的にはある程度できるのかもしれないけど、私としては倫理的に、というか…。


そして次の朝、アリスが起きると先生はもういなくなっています。なんと、朝っぱらから拓海くんにつかまってキャッチボールをしています。
「火村先生、変化球、投げられる?」
「俺は曲がったことが嫌いだ」
そんなことを訊いてはいません。。。
あとで、この様子を妥恵が「ちょっと気怠そうにボールを投げておられましたけど、それがセクシーでしたよ」とか言ってました。私も見たかった。
で、みんな初芝の登場を怒っていますが、特に藤井先生が露骨です。でも怒り方が子供っぽくて、ちょっとかわいいです。
ヒトラーのクローンの話とか出てきますけど、漫画の「放課後のカリスマ」みたいですね!もし偉人のクローンが気になるなら、読むのがいいと思います。
火村の人差し指で唇を触るくせも、セクシーですよねえ。
有栖川さん既出がどうか覚えてないですけどO型ですって。私と一緒。
そうこうしているうちに、電話が繋がらなくなります。おおっ、段々孤島ものっぽくなってきた。

そしてやっとこさ事件発生です。
初芝が泊まっていたおうちで、木崎さんが遺体となって発見されます。
それまでのらりくらりとしていたぼんくら火村が、ここへきてやっとぱりっとのりの効いた感じになります。
「(略)――――そっちもないか、アリス?」
今作始めて火村がアリスをアリスって呼んだ気がします。違うかな?
みんなで木崎氏死亡の原因を探りあい、猜疑心に満ちていくなか、どうしてこのひとらは真っ先に赤の他人の火村とアリスを疑わないのでしょう?
姿が見えない初芝を犯人と信じて疑わなかったからでしょうかね。
『「もうすぐだ。覚悟はできているんだろうな?」
火村に意味不明のことを訊かれた。朝の散歩とバードウォッチングをするだけなのに、どんな覚悟がいるというのか。』
行ってみようとアリスが言わなくても、火村先生は行く気で、その先に何があるのかまでわかっていたんですね。ここぞというときだけほんと急に格好良くなるんですよね。


で、崖の下に、死体があると火村は言う。その死体を見に行くために、崖下へ石段をつたって降りていきます。
俺から行こう、と言ったアリスの内心を火村はあっさり見抜きます。
「落ちるなら自分一人で、という気高い心掛けか。ありがたいな」
「ああ、そうや。けれど、上からお前が落ちてきたら必ず身をかわしてやる」


そして下の洞窟へ辿り着く。
そこには火村の予想通り、死体があります。しかも、烏につつかれた初芝社長。
死体の検分をしているときの、『臨床犯罪学者は手袋を脱ぎ、立てた小指で唇をそっと撫でた』という仕草が!見たい!是非見たい!


「失礼ですが、私に言わせれば怪しいのは有栖川さんと火村先生です。(略)」
やっときたか。ふつう、初めに思うよ。本のこんな5/7あたりまで読み進めてやっとその台詞が出てくるとも思ってなかったよ。でもやっぱり初芝がいなくなってこそなのかな。
それとストーリーの展開上、ある程度大詰めまできたところでみんなに疑わせて行動しにくくさせたかったのかな。
『「さて」火村は髪を手で梳いて「大人の時間になりましたから、刺激的な話を始めましょうか」』
なにおもしろいこと言ってんだろう。
そこから火村もアリスも敵ばっかりつくっちゃってちょっとやりにくいですね。
次第に風当たりが強くなってきて、なんかこのまんま殺されるんではないかなんて思います。確かに。
でもそんな危険を感じる孤島ものってあんまり見たことないな、そういや。
まあ、孤島ものって知らないひと同士が何人か集まって起こりますしね、大概。それがベタだと思う。
『財津はさらに袖をまくる。殴り合いを始める準備をしているわけでもあるまいし、興奮してくると腕まくりをしたくなる性癖の持ち主なのだろう』
これはなんかわかります。私もすぐまくります。笑

 

「有栖川も知っていたのか。もっと早くに聞きたかったよ、俺は」
「日常会話やないか。大した意味はないやろう」
ありすがわ…。だと…。
犯人探しの会議中、ほかのひともいるからかで、火村はアリスをちゃんと呼びます。
それからの海老原の返答に苛立ってアリスを少し心配させたり、なんかちょっと今回の火村先生、感情の振れ幅が大きいです。こんなひとだったかな。


もう暫くしてから、なぜか火村とアリスがキャッチボールなんか始めます。『白球に三十四歳の青春を懸けてる場合やないやろう』。うん、そうですよ。


そして、解答編が始まります。
推理があっていたらそのまま真実を葬るために殺されるんではないかとビビるアリスがちょっと可愛いですね。
「(略)私は有栖川有栖の小説に登場する名探偵のごとく、これまで多くの事件の捜査に関わり、その解明に貢献してきた。名探偵なのでしょう」
アリスもそう言ってるけど、火村が自分を名探偵と言うなんて、どういう心境の変化なのかな。ちょっと不安になっちゃいますよね。

 

ここまできてクローンが関係ない、なんてことないですよね。個人的にはまったく関係なくてもいいんですけど。やっぱりクローンなんてSFみたいなくだらないことなくて、真実はこうなんです。事実は小説より奇なりってね。
ってそんなオチでよかったんだけどなあ。

とはいえ、こういう斜め上の結末も有栖川有栖っぽくていいですね。


推理ショーの途中。
『やがて顔を上げた助教授は、テーブルを挟んだ財津に右手を差し伸べる。
「あなたと握手がしたい。今の言葉に絶大な共感を覚えます。(略)」』
たまにオーバーアクションだとは思ってたけど、こうも演技がかったおおげさなことするひとだったかな。好きですけど。


ドクター、泣き上戸。まさかの泣き上戸。これもひとつのオチです泣き上戸。
アリスと火村の絡み、すごくおもしろいんですよね。だから作家アリスシリーズ大好きなんです。

 

でも、クローンは…あんまり好きじゃないです。